Dr. Emi Otsuji (University of Technology Sydney )

Dr. Emi Otsuji is Co-ordinator, Internationalisation for the School of International Studies. She also coordinates the Japan major within the International Studies degree. She completed a Masters in Applied Linguistics at Macquarie University in Sydney and obtained a Ph.D from University of Technology, Sydney. Her Ph.D thesis received the 2009 Michael Clyne prize for the best postgraduate research on ‘Immigrant bilingualism and language contact’ from the Australian Linguistics Society (ALS) and Applied Linguistics Association of Australia (ALAA). She is also the co-author (with Prof. Alastair Pennycook) of the book, Metrolingualism: Language in the City, (2015), Routledge, and is the co-editor (with Dr. Ikuko Nakane and Dr. William Armour) of Languages and Identities in a Transitional Japan: From Internationalization to Globalization (2015), Routledge. She has published a number of book chapters and articles in various journals including Applied Linguistics, Journal of Sociolinguistics, International Journal of Multilingualism and Multiculturalism, International Journal of Bilingual Education, and Linguistic Landscape.

シドニー工科大学、准教授。 主な研究分野は、社会言語学で、特にグローバル化の街における日常言語活動への影響(メトロリンガリズム)が有名である。また、言語景観、パーフォーマティブ論に基づいた言語とアイデンティティの研究、市民性・公共性とことばの教育、言語教育における批判的談話分析などが挙げられる。

主要業績

Pennycook A & E Otsuji (2015) Metrolingualism: Language in the city. London: Routledge

Nakane, I, E. Otsuji & W. Armour (Eds.) (2015) Languages and Identities in a Transitional Japan: From Internationalization to Globalization, NY: Routledge

Otsuji, E & A. Pennycook (2018) "The translingual advantage: Metrolingual Student Repertoires" in Choi, J and S. Ollerhead (Eds) Plurilingualism in Teaching and Learning, New York: Routledge.

Otsuji, E & A. Pennycook (2018) “Sydney’s metrolingual assemblages: Yellow matters” in Phil Benson, Alice Chik, Robyn Moloney (Eds) Multlingual Sydney, Oxon: Routledge

細川英雄・尾辻恵美・マルチェッラ マリオッティ(編)(2016)『市民性形成とことばの教育:母語・第二言語・外国語を超えて』くろしお出版

尾辻恵美 (2016) Otsuji, E (2016) 「メトロリンガルリズムとアイデンティティ:複数同時活動と場のレパートリーの視点から」,『特別号アイデンティティの新展開』 言葉と社会, 18号, 11-34頁.


ポスト・マルチリンガリズムに基づいたインクルーシブなことばの教育とは:
ことば、人、社会、街の複合性とメトロリンガリズム

本発表では、政治経済、職場や教育機関などの言語政策などに翻弄されたトップダウンの視座に依拠する言語教育ではなく、日常の言語生活に目を向けたボトムアップのアプローチをとるメトロリンガリズムを援用することによって、ある特定の「ことば」を抜き出して学ぶ・教育するとはどういうことかという点を本シンポジウムのインクルーシブというテーマと結びつけて考察する。

言語を並列的/加算的(英語+日本語+スペイン語)に捉えがちな近代主義的な言語イデオロギー(基本的に日本語は日本という国家と結び付いたものであり、「日本人」と繋がる者が話す言語であるという言語―国家―民族の強い繋がり)に基づいたバイリンガリズム、マルチリンガリズムと一線をおき、ポスト・マルチリンガリズムの見地に立つメトロリンガリズムは「ことば」を様々なセミオティック・リソース(言語に限らず携帯電話や商品などのモノ、イメージや匂いなどの五感に纏わる要素なども含む意味を生成し得る資源)の総体であるレパートリーと捉える。つまり、ことばを広義に捉え、複数的ではなく、複合的に捉えるアプローチである。また、「メトロ」という接頭語は場/街を示し、「ことば」と「人」の関係だけではなく、「ことば」と「場や街」の関係に焦点を当て、いかに「多言語」に溢れた街で人々が協働的に種々様々な言語/非言語に纏わる資源を駆使して日常生活を送っているか、そして、いかに街や場が日常のことばの活動によって形成されているかというその過程にも目を向けている。

グローバル化が進み、言語、文化の混淆性の持たらす強みが唱われている中、未だに、近代主義的な言語イデオロギーに基づいたある一つの言語を抜き出して、その言語能力の向上を図ることが、個人や社会のエンパワメントにつながり、そして教育、職場、法廷などのような場においてはその言語によるモノリンガル能力が社会包括に結びつくという考えが優勢である。そこでいう社会包括、統合の考え方は、単一国家、単一言語、単一社会的な考えが主流であり、人々が種々様々なネットワークを作り、複数のグループや社会、ことば、職業や宗教などに主体的に、そして創造的に統合していくという視点が欠けている。

当発表では、近代主義的なマルチリンガリズムや、モノリンガル神話に基づいた社会包括から脱却し、街の動態性や、人々の言語・セミオティック・リソースの豊富さに目をつけ、その国での優勢言語(例えば日本でいう日本語、アメリカでいう英語)ではなく、脱近代主義的で複合的なポスト・マルチリンガリズム(メトロリンガリズム)が人々をつなぎ、融合させていると提唱する。このような視座に立ち、街や場や人のセミオティック・リソースの豊かさを認めることが、インクルーシブな社会をもたらすという見地から、インクルーシブな「ことば」の教育とは何かを探る。